睡眠は我々人類にとって太古の昔より、非常に大切な循環の機能です。
この営みに支障をきたすと肉体・精神のバランスは崩れ、人としての存在も危ういものとなります。
睡眠の大切さについて論じていきたいと考えています。
よき睡眠は健康の根幹
睡眠には、心身の疲労を回復する働きがあり、睡眠が量的に不足したり、質的に悪化したりすると健康上の問題や生活への支障が生じてきます。
睡眠時間の不足や 睡眠の質の悪化は、生活習慣病のリスクを高める恐れがあります。
また、不眠がうつ病のような心の病につながり、睡眠不足や睡眠障害による 日中の眠気が事故につながることも明らかです
適切な量の睡眠の確保、睡眠の質の改善、睡眠障害への早期からの対応によって、事故の 防止と、体と心の健康づくりを目指しましょう。
環境作りによる睡眠の充実
良い睡眠のためには、環境づくりが大切です。
人は習慣として、自分の就寝時刻が近づくと、脳は徐々にリラックスした状態に移り、やがて、睡眠に入っていきます。
スムーズに眠りへ移行させるには、脳の変化を妨げないように、自分にあったリラックスの方法を工夫することが大切です。
就寝前の入浴では、ぬるめと感じる温度で適度な時間、ゆっくりと入浴するのがよ いでしょう。
寝室や寝床の温度・湿度、またシーツ交換やさわやかなパジャマは、体温調節の仕組みを通して、寝つきや睡眠の深さに影響を及ぼします。
環境温が低過ぎると手足の血管が収縮して、皮膚から熱を逃がさぬように体温を保とうとします。
温度や湿度があまり高いと発汗による体温調節がうまくいかずに、皮膚から熱が逃げていきません。
どちらも、結果的に、身体内部の温度が効率的に下がらないために、寝つきが悪くなります。
温度や湿度は、季節に応じ、眠りを邪魔しない範囲に保つことが基本で、心地よいと感じられる調整にしましょう。
明るい光には目を覚ます作用がり、就寝前の寝室の照明が明るすぎたり、白色系であったりすると、睡眠の質が低下します。
就寝時には、必ずしも真っ暗にする必要はありません。自分が不安を感じない程度の照明にすることが大切です。また音に対しても気になる音は遮断するように努めます。
体内時計
- 起床時刻を 通常より3 時間遅らせた生活を 2 日続けると、体内時計が 45 分程度遅れるこ とが判明しています。こうした休日の睡眠スケジュールの遅れは、長期休暇 後に大きくなります。
- 1 日の覚醒と睡眠のタイミングを司っている体内時計は、起床直後の太陽の光を手がかり にリセットし、1 日の時を刻んでいます。
- 光による朝のリセットが毎朝起床直後に行われな いと、その夜に寝つくことのできる時刻が少しずつ遅れます。
- 起床時刻が遅くなることで夜型化に移行します。朝、暗いままの寝室で長い時間を過ごすことで、起床直後の太陽光による体内時計のリセットがうまく行えないことにあります。
- このリセットが行えな いために、夜の睡眠の準備が遅れ、さらに朝寝坊の傾向を助長してしまうのです。
- 体内時計がずれ、睡眠時間帯の不規則化や夜型化を招く可能性があります。
- 寝床に入ってから携帯電話、メールやゲームなどに熱中すると、目が覚めてしまい、さらに、就床後に、長時間、光の刺激が入ることで覚醒を助長することになるとともに、夜更かしの原因になるので、注意が 必要です。
皆さまが良くご存じなのが、海外旅行をされたときに時差による体内時計が著しく変化することです。
こうした変化により、体調の不調や消化器系の異常が報告されております。
十分な睡眠が心の病を防ぎょ
- 睡眠不足している人や不眠がある人では、生活習慣病になる危険性が高い、睡眠不足や不眠を解決することで、生活習慣病の発症を予防できると されています。
- 睡眠時に息の通りが悪くなって呼吸が止まる睡眠時無呼吸症候群は、治療しないでおくと高血圧・糖尿病・不整脈・脳卒中・・虚血性心疾患・歯周疾患などの危険性を高 めます。
- 睡眠時無呼吸症候群は、肥満や寝姿勢によって、睡眠時に気道(喉の空気の通り道)が詰まりやすくなると、発症したり、重症化したりします。
- 睡眠時無呼吸症候群の予防のた めには、肥満にならないことが大切です。
- 寝つけない、熟睡感がない、早朝に目が覚めてしまう、疲れていても眠れない等の不眠症状は、心の病の症状として現れることがあります。
- 眠っても心身の回復感がなく、気持ちが重たく、物事への関心が浅くなり、楽しめないといった ことが続く場合には、うつ病の可能性があります。
- うつ病の8~ 9割近くの人が不眠症状を伴い、睡眠による休養感の欠 如は、最も特徴的な症状と考えられています。
- 不眠の症状がある人は、うつ病にかかりやすいということも知られています。
- うつ病に限らず、睡眠時間が不足してたり、不眠症のため寝床に就いても眠れなかったりして、睡眠による休養感が得られなくなると、日中の注意力や集中力の低下、頭痛やその他のからだの痛みや消化器系の不 調などが現れ、意欲が低下することが分かっています。
適度の運動と食のリズム
- 適度な運動の習慣が、早い眠りと睡眠途中での目覚めを減らすことになります。また、朝食をとることは朝の目覚めを促しこれらの生活習慣によって、睡眠と覚醒のリズムに区別をつけることができる一方、就寝直前の激しい 運動や夜食の摂取は、睡眠を妨げることから注意が必要です。
- 就寝前にリラックスすることは睡眠を促すために有効ですが、一方、就寝前の飲酒や喫煙は睡眠の質を悪化させるため、控えた方がよいでしょう。
- アルコールは、慣れが生じて量が増え一時的には睡眠を促進しますが、睡眠が浅くなり、熟睡感が得られなくなります。
- また、ニコチンには覚醒作用があるため、就寝前の喫煙は、睡眠を浅くします。
- 寝酒や喫煙は、生活習慣病の発症・重症化の危険因子になり、睡眠の質を下げるだけでなく、睡眠時無呼吸の危険性を増加させ、二次的に睡眠を 妨げる可能性も指摘されています。
- 就寝前 3~4 時間以内のカフェイン摂取は、睡眠を浅くする可能性があ るため、控えた方が良いでしょう。
- これは、主にカフェインの覚醒作用によるもので、こ の作用は 3 時間程度持続します。また、カフェインには利尿作用もあり、夜中に尿意で目 が覚める原因にもなります。
- カフェインは、コーヒー、緑茶、紅茶、ココア、栄養・健康 ドリンク剤などに多く含まれています。
年齢・環境による睡眠の個人差
必要な睡眠時間は、個人によって大きく異なり、年齢によっても変化します。
自分に必要な睡眠時間を知ることは健康維持に大いに役立ちます。
自分の睡眠時間が足りているのか足りていないのかを知るためには、日中の活動で眠気の程度を注意すると可能です。
日中の仕事や活 動に支障をきたす程度の眠気でなければ、普段の睡眠時間は足りていると考えてよいでしょう。
成人の睡眠時間は 6 時間以上 8 時間未満の人がおよそ 人口の6 割台で、これが標準的 な睡眠時間と考えられています。
睡眠時間は、夏季には短くなり、冬季には 長くなるといった傾向があります。
夜間に実際に眠ることのできる時間、つまり一晩の睡眠の量は、成人してからは加齢す るにつれて徐々に減っていきます。
夜間の睡眠時間は
- 10 歳代前半までは 8 時間以上、
- 25 歳 で約 7 時間、
- 45 歳には約 6.5 時間、
- 65 歳になると 約 6 時間、
健康で病気のない人では 20 年ごとに 30 分程度の割合で減少し ていくことが統計上判明しています。
一方で、夜間に寝床で過ごした時間は、20〜30 歳代では 7 時間程度ですが、中年以降では長くなり、75 歳では 7.5 時間を越えています。加齢による朝型化は男性でより強いことが顕著に現れます。
個人差はあるものの、必要な睡眠時間は 6 時間以上 8 時間未満と考える のが妥当でしょう。
睡眠時間と生活習慣病やうつ病との関係などからもいえることですが、必要な睡眠時間以上に長く睡眠をとったからといって、健康になるわけではありません。
年をとると、睡眠時間が少し短くなることは自然であり、日中の眠気で困らない程 度の自然な睡眠が一番であるということを知っておくことが大切です。
睡眠不足の弊害
勤労世代では、必要な睡眠時間が確保しにくいこともあるため、勤務形態の違いを考慮しつつも、十分な睡眠を確保する必要があります。
睡眠不足は、注意力や作業能率を低下させ、生産性を下げ、人員的な事故の危険性を高めます。
忙しい職場では、睡眠時間を削って働いてしまい、それが続くと知らず知らずのうちに作業能率が低下 をきたし、さらに、産業事故などの危険性が増すことを自覚すべきでしょう。
睡眠不足が長く続くと、疲労回復は難しくなります。睡眠不足による疲労の蓄積を防ぐには、毎日の必要な睡眠時間を確保することが大切です。
睡眠の不足を休日などにまとめて解消しようとすることを「寝だめ」と呼ぶことがあります。
しかし、疲労は蓄積しても・睡眠を貯えることはできません。
睡眠不足が蓄積されてしまうと、休日にまとめて睡眠をとろうと試みても、睡眠不足による能率の低下をうまく補うことはできません。
また、睡眠不足の解消のために、休日に遅い時刻まで眠っていると、かえって光による体内時計の調整が行われないために生活が夜型化 して、日曜の夜の入眠困難や月曜の朝の目覚めの悪さにつながります。
毎日十分な睡眠をとることが基本ですが、仕事や生活上の都合で、夜間に必要な睡眠時間を確保できなかった場合、午後の眠気による仕事の問題を改善するのに昼寝が役に立ち ます。
午後の早い時刻に 30 分以内の短い昼寝をすることが、眠気による作業能率の改善に 効果的です。
年齢に応じた睡眠と運動を!
健康に資する睡眠時間や睡眠パターンは、年齢によって大きく異なります。
高齢になる と、若年期と比べて必要な睡眠時間が短くなります。
具体的には、20 歳代に比べて、65 歳 では必要な睡眠時間が約 1 時間少なくなると推測されています。したがって、年齢相応の 適切な睡眠時間を目標に、就寝時刻と起床時刻を見直し、寝床で過ごす時間を、適正化することが大切です。
長い時間眠ろうと、寝床で過ごす時間を必要以上に長くすると、かえって睡眠が浅くなり、夜中に目覚めやすくなり、結果として熟睡感が得られません。
適切な睡眠時間を確保できているかを評価する上では、日中しっかり目覚めて過ごせているか も一つの目安ですね。
日中に長い時間眠るような習慣は、昼夜の活動・休息のメリハリをなくすことにつながり、夜間の睡眠が浅く不安定になりがちです。
日中に適度な運動を行うことは、昼間の覚醒の度合いを維持・向上させ、睡眠と覚醒のリズムにメリハリをつけることに役立ちます。
主に中途覚醒の減少をもたらし、睡眠を安定させ、結果的に熟睡感の向上につながる と考えられます。
また、運動は、睡眠への恩恵のみならず、加齢により低下する日常生活動作(ADL)の維持・向上や、生活習慣病の予防にも大きく寄与します。
ただし、過剰な強度の運動はかえって睡眠を妨げ、けがなどの発生にもつながる可能性があるため、まずは無理をしない程度 の軽い運動から始めることを強くお勧めします。
睡眠時無呼吸症候群の予防と早期発見
寝つける時刻は季節や日中の活動量また体調などにより変化します。一年を通じて毎日同じ時刻 に寝つくことが自然なわけではありません。
就寝する 2〜3 時間前の時間帯は一日の中で最 も寝つきにくい時間帯です。意図的に早く寝床に就くと、かえって寝つきが悪くなります。
就寝時刻はあくまでも目安であり、その日の眠気に応じて「眠くなってから寝床に就く」ことがスムーズ な入眠への近道です。
眠たくないのに無理に眠ろうとすると、かえって眠りへの移行を妨げます。
自分にあった方法で心身ともにリラックスして、眠たくなってから寝床に就く習慣が重要です。
寝床に入る時刻が遅れても、朝起きる時刻は遅らせず、できるだけ一定のリズムを保ちましょう。朝の一定時刻に起床し、太陽光を取り入れることで、入眠時 刻は徐々に改善されます。
年齢に関係なく、眠りが浅く何度も夜中に目が覚めてしまう場合は、寝床で過ごす時間が少し長すぎる可能性 が予想されます。
必要以上に長く寝床で過ごしていると、徐々に眠りが浅くなり、夜中に目覚める習慣になりかねません。
特に退職後に、時間にゆとりができた場合など、生活の変化がきっかけとなって、必要以上に長く寝床で過ごしてしまうことがあります。
また、不眠でよく眠れないことを補おうとして、寝床で長く過ごすようになる人もいますが、必要以上に長く寝床で過ごしていると、さらに眠りが浅くなり、夜中に何度も目覚めるようになります。
対処としては、
積極的に遅寝・早起きにして、寝床で過ごす時間を適正化することが大事です。
睡眠中の心身の変化には、専門的な治療を要する病気が隠れていることがあるため、注意が必要です。
睡眠中の激しいいびきは、喉のところで呼吸中の空気の流れが悪くなっていることを示すサインであり、睡眠時無呼吸症候群などの睡眠中の呼吸に関連した病気の可能性があり注意が必要です。
睡眠時無呼吸症候群は、適切な治療を受けることで症状が改善し、高血圧や脳卒中の危険性が減ることも示されています。
このため、睡眠時無呼吸症候群の予防と早期発見が重要です。また、就寝時の足のむずむず感や熱感はレストレスレッグス症候群、睡眠中の手足のぴくつきは周期性四肢運動障害の可能性があります。
これらの病気があると、一定時間眠っても休息感が得られず、日中に異常な眠気をもたらすことがあります。
さらに、睡眠中の歯ぎしりがある人は顎関節の異常や頭痛を持つことが 多いことが示されています。
いずれも医師や歯科医師に早めに相談することが肝要です。
また、うつ病の多くは、寝つきが悪く、早朝に目が覚めたり、熟睡感がないなどの特徴的な不眠を示します。
こうした特徴的な睡眠障害を初期のうちに発見し適切に治療することは、うつ病の悪化を予防することにつながります。
きちんと睡眠時間が確保されていても日中の眠気や居眠りで困っている場合は、ナルコレプシーなどの過眠症の可能性もあ るので、医師による適切な検査を受け、対策をとることが大切です。
レム睡眠とノンレム睡眠で成り立つ睡眠
寝つけない、熟睡感がない、十分に眠っても日中の眠気が強いことが続くなど、睡眠に問題が生じて、日中の生活に悪い影響があり、自らの工夫だけでは改善しないと感じた時には、早めに専門家に相談することが重要です。
例えば、ひとり夜眠れないでいることはつらいだけでなく、孤独感を感じるものです。
そのつらさは家族にもなかなかわかってもらえないことがあります。
そのため、相談できる人を持つことは大きな助けとなります。
苦しみをわかってもらうだけでも気持ちが楽になり、さらに、睡眠習慣についての助言を受けることで睡眠が改善する手立てをみつけることができる可能性があります。
また、よく眠れない、あるいは日中眠たくて仕方ないなどと感じたら、それは「からだやこころの 病」の兆候かもしれません。身近な専門家(医師、保健師、看護師、助産師、薬剤師、歯科 医師、管理栄養士、栄養士など)に相談することが大切です。
睡眠には当然深い眠りの時と浅い眠りの時があります。この相乗効果で良い眠り・悪い眠りに区分けされます。
人の眠りには、病の起源が隠されているものです。軽く考えないで今一度ご自身の睡眠を見直してみましょう。
睡眠薬などの薬を用いて治療を受ける際は、医師に指示された用法や用量を守り、薬剤師から具体的な服薬指導を受けることが肝要です。
また、薬とお酒とを一緒に飲まないことは特に重要です。お酒と睡眠薬を同時に飲むと、記憶障害、もうろう状態等が起こる可能性があり、危険です。疑問や不安ある場合、睡眠薬を飲み始めて気になる症状が出た場 合には、医師や薬剤師に相談しましょう